お芝居の感想をつらつらと

気が向いた時に戯れ言を書くスタイルです。

KERA・MAP #006『グッドバイ』

(観劇日2011.09.26 ソワレ / 2011.10.17 ソワレ / 2011.10.18 マチネ)

太宰の未完小説『グッド・バイ』を舞台化した今回の作品は、誰が観ても幸せになる王道ラブコメで私の大好きな作品の1つとなりました。思い出すだけでニヤニヤしちゃう。

 

時は戦後の日本。雑誌編集長の田島が疎開先の妻と娘を東京に呼び寄せるため、絶世の美女(だけどダミ声でお金に目がなくて大食らい)である担ぎ屋のキヌ子を偽の妻として連れて回り、愛人たちに別れを告げようとするというのが大まかな流れ。

結局田島からグッドバイするつもりが愛人たちの方から次々グッドバイされ、終いには疎開している妻からも「アイソ ツキタ」の電報。自暴自棄になっていた田島だが占い師にキヌ子こそが運命の相手だと知らされ、今度こそ!と意気揚々としていたところで追い剝ぎに襲われ米軍に捕まり姿を消す。世間で田島は死んだと報じられ悲しみにくれるキヌ子…というところで1幕はおしまい。

 

2幕はまた180度違って(!)、田島の元妻シズエが企画する「田島周二を偲ぶ女たちの会」(だったかなー…ちょっと名称は曖昧です)に田島の元愛人たちとキヌ子が集っている。そこに記憶を無くした田島が登場。死んだと思っていた田島が生きていたので愛人たち大パニック!とりあえずひとりずつ田島に挨拶しに行こうという流れになったが実は田島は記憶が戻っていて(!)、シズエに取り計らってもらいキヌ子に告白、大団円!というハッピーラブ!なラストで締めくくられます。

 

KERA氏が「導入こそ太宰だが、後半は全く違う」的な事をツイッターで仰っていたので、ほんとにつかみだけ原作通りで、どんどんKERA色に染まってゆくのかと思いきや…意外にも現存している原作部分はオリジナルの展開は無くほぼ忠実。原作は読んでいたので答え合わせのように観てました。ただ、原作部の展開はちょっと早すぎたかもしれない…ここは原作読んでいることを前提で観て下さいと言わんばかりに駆け足ぎみだった気がする。あっという間に物語に引き込む戦略だったのかもしれないけど。

 

プロジェクションマッピングを使ったOPはもう主流になりつつあるのかな。大きいところはどこの団体でももうかなりの確率で使ってる印象。今回もそうだけどやっぱりテンションあがりますねぇ。振り付けや曲と相まってかっこよかったですとっても。

 

まぁなんといっても小池栄子様のキヌ子です。想像の声とぴったりで鳥肌が立ちました。もともと好きでしたが女優としてというより、バラエティーや司会業とかも含めて総合的に好きだったのですが、こんなに上手い「小池栄子」を見せつけられて女優としての彼女の印象がグンと上がりました。今回のベストアクトレスを選ぶとしたら確実に彼女です。(池谷のぶえさんと迷うとこだけれど…)「おそれいりまめ!」最高ですねぇ。これは読むより聞いた方がぐっとくる名台詞ですよ。

キヌ子は不器用な女性で、捨て子っていうのもあって、お金でしか価値を計れなかったのかなと。田島とのコミュニケーションも最初はお金ありきでやっていたし。けれどだんだんそうじゃなくなってくる。キヌ子が「報酬としてお金をくれる田島」ではなく「田島本人」へ惹かれていく…その愛らしくももどかしい様子がじわりじわりと観客だけに伝わる(あ、大櫛先生は気づいていたか)感じがもうたまらなく好きでした。またその微妙な感じの演技が素晴らしい。

田島も疎開先の妻に仕送りさえしておけば安心、と思っていたり、別れを告げる愛人に札束渡してたりと、愛情と金を履き違えてるところがあるのでそういう部分でも2人は似ていたのだと思います。

その田島役の仲村トオルさんがナヨナヨしくて最高…!あぶデカの町田透っぽい感じ!可愛らしくてほっとけなくて…でも男前で手足も長い(重要)…。あの田島なら確かに愛人も増えるよなあと。

田島は愛人たちとプラトニックな関係だったのでは。とも考えましたが長くなるので割愛。

 

今回、役者が仲村トオル小池栄子に加え、水野美紀夏帆門脇麦町田マリー緒川たまき萩原聖人池谷のぶえ野間口徹山崎一という実力派も実力派。

第一幕では仲村、小池以外の9人は主要キャラとは別のモブキャラを何役もこなし、第二幕に入ると主要キャラでのコメディ合戦。贅沢です!まさにお腹いっぱい胸いっぱいになりました。

特に水野美紀嬢は第二幕で本領発揮といったところでしょうか。彼女は生粋のコメディエンヌですね…!ただただ笑ってしまいました。

役者の皆さんもそれはそれは楽しそうに、このお話が大好き!てな匂いプンプンで演じているんです…それが嬉しくって…!たぶんあの場は世界一幸せな空間でした。

 

こんなにニコニコして劇場を後にする舞台はなかなかないと思います。ましてや原作が太宰で脚本演出がKERAさん…この字面を見ただけでは想像できない幸せなお芝居にメロメロになってしまった次第です。

大楽日のカーテンコールで、役者+KERAさんが全員で観客に向かって「グッドバイ!!」と叫んだ時、ああ〜このカンパニーは最高だなぁと思いました。(私はあれをやろうと言い出したの、トオルさんだと踏んでるんだけどどうなのかしらっ)

お芝居の中からも外からも幸せをくれる、そんな舞台でした。

 

 

(すでにDVD化が決まっているので、ぜひとも多くの人に観ていただきたい!と一ファンは願うばかりです)

 

 

青空文庫 太宰治『グッド・バイ』

http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/258_20179.html