NODA・MAP 第二十回公演 『逆鱗』
(観劇日 2016年3月11日 ソワレ)
一年ぶりのNODA・MAP
去年の私はここ芸劇で「エッグ」(第十九回公演)という作品を観て、初めての野田演劇に打ちひしがれ心の芯から魅了され、当日券で何度も芸劇に通ったなぁ…と、そんな思い出に耽りながら三時間並んで当日券ゲット。お金もあまりないのでベンチシートで観劇。
舞台は海中水族館。そこで人魚を生け捕りにして水槽に放つプロジェクトを進めているという設定。人魚を捕まえる任務に志願した男たちと海底の底に住まう人魚たちを描いていた…と思いきや、本当のテーマは人(間)魚(雷)の回天とそれに志願した(志願せざるを得なかった)男たちの悲しくも残酷な末路を描くストーリー。
実はツイッターで当日券情報を探っている時に誤ってネタバレツイートを見てしまい、今回の作品が回天を主題にしている事を知ってしまったので、前半から伏線を理解しながら観られました。本当は「どうなっていくのだ…」とドキドキしながら観たかったけれど仕方ない。今回は時間とお金の関係上一回しか観られないからまあこれもありかな、と。
そして観ました。
正直言って良い?
「エッグ」の方がすきだぁ~~~~
というか、「エッグ」に似てるなというのがほんとのほんとの正直な感想。
テーマはもちろん、回天と731部隊で違うし(戦争時に人間が生み出した理不尽で残酷な組織という点では一緒)演出方法もまるで違うんだけど、ど、ど、、、
全体の流れとか、裏テーマに持ち込む感じとか(でも私これ大好き)
あと役の立場とか…
例えば今回の瑛太は「エッグ」でいうところのぶっきー(妻夫木聡)ポジションで、元ある団体にひょんな事から紛れ込む。そしてなぜか他の人には無い特別な力を持っている。
阿部サダヲさんは「エッグ」の大倉孝二さん的ポジション。笑いで観客を惑わせて、すぐに本当のテーマに気づかせないような役割、とかとか
あと、責任感がまるで無い上層部ポジに今回は池田成志さん、「エッグ」では橋爪功さん。男よりも強く凜々しく自分の信念を持って冷徹に人を操作する女性ポジに井上真央ちゃん。同じ役割を「エッグ」では秋山奈津子さんが担っていた。
それから、最後の瑛太と松さんのシーンなんかはぶっきーと深津さんのシーンと同じ様な構図で(「エッグ」のように野田さんは出てこなかったけど)、これ二部作なのかな…とさえ思ってしまった。
違いとしては「エッグ」よりも全体のテーマが絞られていた。「エッグ」は731部隊という大きなテーマを描きつつもオリンピックであったり、スポーツと音楽であったりとその他の要素がたくさんあった。登場人物ひとりひとりのエピソードも盛り込まれていて、伏線探しの旅に出たら今でもきっと帰ってこられない。(一方でこれがどこに繋がる…?という時間が長すぎたという弱点もあった)今回は人魚と男たち。そういう大きなくくりで描かれていたように思う。
ただ、そのおかげで「エッグ」に比べてかなり分かりやすかった。中盤から表テーマと裏テーマを行ったり来たりする演出も手伝って表と裏が結びつきやすい作品だったと思う。
しかしここでお詫びを入れておきたいのは、恥ずかしながら私はNODA・MAPを観るのはこれが二作品目だということ。
流れがどうの裏テーマがどうのとか言っているがそれがNODA・MAPの一貫性なのかもしれない。そうであったらただの私の勉強不足なので多めに見て頂きたい。ただの大学生の戯れ言ですから…
ここまで散々ぶちぶち言ってきたが、忘れないで…私は去年から「野田演劇に打ちひしがれ心の芯から魅了され」ているということを!
笑ったし泣いたし、鼻水も垂れ流して顔ぐしゃぐしゃにして観た。化粧がなんだ!知るかそんなもん!心臓なんかすぐに持ってかれて舞台の上に転がっていた気がする。
特にアンサンブルの方々の身のこなし!素晴らしかった。美しかった。姿は人なのに魚にしか見えなかった。リトルマーメイドもびっくりよ。
誰の振付なのかしらと思ってクレジット見たらイデビアンクルーの井手さんだった。どうりで…!
あと、「エッグ」でもそうだったんだけど野田さんの演出方法にはくぎづけになる。どうしてあんなこと思いつくのだろう。
丸い銀盤で海中の泡を表現したり、向こう側がぼやけるパネルで水槽を表現したり、映像と舞台上と人間が行ったり来たりとか!観ていて楽しくってしょうがない。わくわくが止まらない。
極めつけは回天の模型。きっと実物大でしょう。
「うわ、うわ、出てきちゃったよ…」と思った。実際に目にするとゾッとした。
こんなモノに乗って、しかも出来るはずもない操縦を要求されて、標的に当たる事ができる確率はほぼなく、脱出経路もなく、戻る事も許されない中で自分の命を自ら犠牲にしなければならない、その選択しか残されていない…。そんな人たちが紛れもなく存在したということに言い様のない悲しさと怒りと恐ろしさを覚えた。
役者陣はもう、それはもう、もうもうもう凄い方々ですよ。ぽんぽん場面が変わる中であれだけブレが生じないのは素晴らしいの一言に過ぎる。間違いないでしょ、そりゃ。
私が一番感動したのが目線の演技。
舞台上にはない水槽は高く大きく見えたし、海は広く遠く見えた。
役者陣の中で、私は一番井上真央ちゃんにびっくり。とっても良かった。あんな演技も出来るのか…。野田演劇は大声出すからすぐ声が潰れる(しかも野田さんが一番潰す)という話をどこかで聞いていて、真央ちゃんは舞台のイメージないな~と思っていたけど声もいちばん良く通って聞こえたし、本当に従来の井上真央像ではなかった。
ただ、裏を返せば若干野田色に染まりすぎている感じも…口調が野田さんにそっくりだったし。それも目論見の内だったら素晴らしいけど。
阿部さん(も「エッグ」の時の大倉さんもそうだけど)、前半ふざけてた人が一気に真面目な演技するのはずるいよねぇ。しかも責任感と正義感に溢れているからこその迷いとか、回天に乗り込む部下たちの感情が痛いほどよく分かるけど自分にはゴーサインしかだせない葛藤とかたまらなかったなぁ。観ていて苦しかったけど最高に良かったよ。
松さんの安定感、瑛太の素直さ、真ちゃん(満島真之介)なんかあれ当て書きなんじゃないかってくらいぴったりだったし。その他ベテラン勢の方々は言わずもがな。
照明もよかった~。裏テーマの時のあの赤黒い照明が恐ろしくかっこよかった。ゾクゾクした。いろいろなものがぐるぐる渦巻く空間を見事に表現していた。
とりあえず、あのお芝居のすべてが野田秀樹というお人から生み出されているのかと思うと凄すぎて恐ろしささえ感じる。どうなってんだい頭の中。って毎回言っている気がする。だから来年のNODA・MAPがもう楽しみになってるもん(新作らしい!)
ツイッターで感想ツイートを眺めていると、「逆鱗」は東日本大震災で被災した方々についても描いているのではという感想があった。なるほど…あれから5年、私が観に行った日は図らずも3月11日だった。
私のポンコツな頭ではもう限界なので、いつか戯曲を読んでちゃんと考え直そう。